「イージーチャイルド」「ディフィカルトチャイルド」という言葉を聞いたことはありますか? 子どもには、生まれつきの「育てやすさ・育てにくさ」に違いがある――そんな考え方を示すときによく使われる用語です。
私がこの言葉を初めて耳にしたのは、保育士等キャリアアップ研修の場でした。講師の先生が「俗に言うイージーチャイルド、ディフィカルトチャイルドというものがあって……」と前置きしながら、子どもの生まれつきのタイプについて説明していたのです。
実はこの考え方の元になっていると言われる研究が、1冊の育児書の中でわかりやすく紹介されています。
『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』という本です。イージーチャイルド・ディフィカルトチャイルドという英語そのものは出てきませんが、内容を読むと「ああ、この研究のことを指しているのだな」と感じます。
この記事では、この本を手がかりに、イージーチャイルド/ディフィカルトチャイルドという考え方をやさしく整理してみます。
子どもの「生まれつきのタイプ」を調べた研究
本の後半に「子どもの生まれつきのタイプを知る」という章があります。ここで紹介されているのが、講義でも話題になっていた研究とよく似た内容です。
研究者のステラ・チェスとアレクサンダー・トーマスは、子どもの気質を理解するために、9つの特徴に注目しました。最初のサンプルは140人と決して多くはありませんが、1956年から1988年まで続いた長期的な追跡調査であり、知見としての重みがあります。
彼らが挙げた9つの気質は、次の通りです。
- 活発さ
- 規則正しさ
- 新しい環境への反応の仕方
- 変化に対する順応の速さ
- 喜怒哀楽の激しさ
- 機嫌の傾向
- 注意のそれやすさ
- 粘り強さ/注意持続時間
- 五感の敏感さ
これら9つの組み合わせから、「その子らしさ」としての気質が見えてきます。
イージーチャイルド/ディフィカルトチャイルド/慎重な子ども
この研究では、多くの子どもが次の3タイプのいずれか、またはその中間に当てはまるとされています。ここから、俗に言う「イージーチャイルド」「ディフィカルトチャイルド」という呼び方が広まったと考えられます。
①柔軟で育てやすい子ども(約40%)
『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』より
食事や睡眠のリズムが比較的整っていて、新しい刺激にもスムーズに近づいていけるタイプです。環境の変化にも穏やかに慣れていくことが多く、「イージーチャイルド」と呼ばれるのは、このグループを指すことが多いでしょう。
②短気・活発で扱いが難しい子ども(約10%)
『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』より
変化への適応が難しく、食事や睡眠のパターンが不規則になりがちなタイプです。新しい刺激を拒んだり、環境の変化に対して強く反応することもあります。一般的に「ディフィカルトチャイルド」と呼ばれるのは、このグループです。
③慎重で、打ち解けるのに時間がかかる子ども(約15%)
『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』より
変化にはすぐには慣れず、食事や睡眠リズムも最初はばらつきやすいタイプです。新しい刺激には一歩引いて様子を見ますが、同じ体験を何度か繰り返すうちに、徐々に心を開いていく傾向があります。
残りの子どもたちは、これら3つのタイプが混ざった「中間型」と考えられています。はっきりどれか1つに当てはまるというより、「少しイージー寄り」「慎重さもある活発タイプ」といったグラデーションでとらえるのが自然です。
違いがあって当たり前。優劣ではなく「特徴」
保育の現場でも実感することですが、子どもは本当に一人ひとり違います。よく笑ってよく寝る子もいれば、刺激に敏感で、環境の変化に強いストレスを感じやすい子もいます。
家族構成や家庭環境、先天的・後天的な要因……。背景が違えば、子どもと保護者が抱えている苦労の形もさまざまです。
それなのに「育てにくい子」「手のかかる子」「生きにくいタイプ」などの言葉だけを聞くと、とたんに乱暴で、否定的な印象になってしまいますよね。
本で繰り返し強調されているのは、気質そのものに優劣はないという点です。イージーチャイルドだから「良い子」で、ディフィカルトチャイルドだから「ダメな子」なのではありません。ただ単に、関わり方にコツがいるタイプがある、というだけの話です。
「なんでこの子は…」と思ったときの視点の置きかえ
日々の育児の中で、つい「なんでこの子はこうなんだろう……」とため息が出る瞬間は、誰にでもあります。泣きやまない、寝ない、初めての場所で大騒ぎ、準備に時間がかかる……。
そんなときに、「イージーチャイルド」「ディフィカルトチャイルド」という言葉を、ラベルとして貼りつけるためではなく、自分の心を軽くするための枠組みとして使ってみるのはどうでしょうか。
「そういう気質の子なんだな」「この子は変化に時間がかかるタイプなんだな」と、少し距離を置いて眺めてみると、親として自分を責めすぎずに済むことがあります。
「へぇ、こんな研究もあるのね。ふーん。」くらいの気持ちで知っておくだけでも、「育てにくさ」を全部自分のせいだと抱え込まなくてよくなるかもしれません。
本をじっくり読む時間がなくても
子育て中は、ゆっくり本を読む時間なんてない――という声もよく耳にします。正直、その通りだと思います。
それでも、この本は気になる項目だけつまみ読みしても十分に価値がある1冊です。「生まれつきのタイプ」の章だけでも、育児のつらさの感じ方が少し変わるかもしれません。
興味を持たれた方は、スキマ時間に少しずつ読んでみてはいかがでしょうか。
『いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる 最高の子育てベスト55』
トレーシー・カチロー 著/鹿田昌美 訳
↓↓子育てにおける「父親の役割」についても、こちらの記事でまとめています↓↓







コメント