
園の防犯対策、きちんと整っていますか?
「刃物を持った人物が保育園に侵入した」――そんなニュースを耳にするたび、現場で働く者として背筋が冷たくなります。
もし自分の園だったらどうするのか。何をどこまで準備しておけば、子どもたちと自分たちの命を守れるのか。考えれば考えるほど、不安になるテーマですよね。
「とっさのとき、本当に自分は子どもを守れるだろうか?」
「園として、どこまで防犯の備えをしておくべきなんだろう…?」
子どもの命がかかった場面で、保育者だけが逃げるわけにはいきません。しかし、無理に立ち向かって命を落としてしまっては本末転倒です。
同じ保育の現場で働く者として、現実的にできる防犯対策を一緒に整理していきましょう。
この記事では、警察官から受けた不審者対応の指導内容や、実際の訓練で感じたことをもとに、園で準備しやすい防犯グッズとその使い方のイメージを解説します。
最後に、私が「これは現場でも使いやすそう」と感じたアイテムもいくつか紹介します。あなたの園の防犯対策を見直すきっかけになればうれしいです。
腕力に差はあっても、園児を守る責任に男女の区別はありません。誰が持っても扱いやすい道具や体制づくりを一緒に考えていきましょう。
園の防犯対策を考え直すきっかけになった出来事
宮城県登米市のこども園で起きた不審者侵入事件
あるこども園に不審者が侵入したニュースが報じられたあと、私の住む地域でも一気に緊張感が高まりました。
その数日後、市内の複数園が集まり、園長・施設長クラスを中心とした緊急の情報共有会が開かれました。たまたま私も、職員の一人として同席する機会をいただきました。
詳細はここでは省きますが、その場で大きなテーマになっていたのが次の問いです。
「各園では、どのような防犯道具をそろえているか/今後そろえる予定か」
どの園も「何かしら準備はしているものの、これで十分と言い切れるのか不安」という空気でした。
実際に聞いた「防犯武器をそろえた園」の例
参加園のうち一部(十数園中2園ほど)は、すでに金属バット・木刀・アイアンゴルフクラブなど、かなり物々しい道具を防犯用に備えていると話していました。
その園の男性職員は、「いざというときは不審者の足を止めるつもりでいる」と、かなり気合の入った様子だったそうです。
とはいえ、保育者が日誌やおたよりを作成する事務室に、バットや木刀が立てかけてある光景を想像すると、保育園というより映画に出てくるちょっと物騒な事務所のようにも思えます。
現実には、ニュースで見るような出来事が他人事ではなくなっているからこそ、「そこまで準備した方がいいのか」「子どもたちを守るためなら仕方ないのか」と、現場が揺れているのだと感じました。
多くの園にはすでに「サスマタ」が配置されていますが、
「サスマタ以外に何を準備すべきか」「どの道具なら現場でも扱えるのか」
と悩んでいる園が非常に多い印象でした。周囲の園の状況を知りたがる声もたくさん聞かれました。
防犯グッズの前に、「そもそもカメラでどこまで抑止できるか?」を整理したい方は、こちらもどうぞ。
園で検討したい防犯グッズと、その「リアルな使い勝手」
私はこれまでに、警察署の生活安全課の方などから不審者対応に関する講習・実技指導を5回ほど受けてきました。
ここからは、その指導内容や実際に模擬訓練で道具を使ってみた体験をもとに、各防犯グッズの特徴や注意点を整理していきます。
どの道具にもメリット・デメリットがあり、「これさえあれば絶対に安心」というものは存在しません。あくまで命を守るために時間を稼ぐ道具として、現実的なラインを一緒に考えていきましょう。
サスマタの使用について
警察から教わったサスマタ使用時の基本スタンス
・通報から警察が到着するまで、早くても5分程度はかかる。
・その間に「犯人を取り押さえる」のではなく、あくまで命を最優先にして距離を保ち、時間を稼ぐこと。
・格闘技経験者や逮捕術に長けた人でも、刃物相手に重傷を負うケースは少なくない。男性職員だからといって、無理に制圧を狙わないでほしい。不審者対応講習で警察官から受けた主な助言の要約
サスマタは、うまく使えば相手との間合いを取りつつ接近を防ぐための道具として大きな助けになります。
一方で、1本だけで不審者1人を抑え込むのは非常に難しいことも、実技訓練を通して痛感しました。
サスマタ1本だけでは不利になりやすい理由は、ざっくり次の3つです。
- 押し合い・引っ張り合いになりやすく、結局は「体重と筋力の勝負」になってしまう。
- U字部分を相手に握られるとテコが効き、グリップをひねられて奪われるリスクが高い。
- 1本だと簡単に柄をつかまれ、あっという間に距離を詰められてしまう。
実際に訓練で一対一を想定してみると、ナイフ役の相手はサスマタの隙間を縫って簡単に回り込んできます。こちらが「抑え込む」イメージで突っ込むほど、逆に危険が増す感覚がありました。
サスマタは、1人で戦うための武器ではなく、複数人での連携を前提とした「間合い管理の道具」だと理解しておくことが大切です。
最近は材質や先端の形状もさまざまで、足払いに使いやすいものや、打撃を想定したものも販売されています。
園内には複数本を配置し、「どこに置けばすぐに取れるか」を想定したうえで訓練しておくことが重要です。
ここからは、サスマタと刃物をそれぞれ保育者・不審者が持っている状況を想定しながら、人数別に「現実的に起こりうる展開」をイメージしてみます。
※大前提として、警察は「一般市民が相手にケガをさせること」を推奨してはいません。あくまで命を守るために距離を取り、時間を稼ぐための道具として使う意識を忘れないでください。
【想定1】保育者1名 VS 不審者1名
もっとも危険で難易度が高い状況です。サスマタ1本で真正面から制圧しようとするのは、現実的ではありません。
基本は、リーチを活かして「近づかせない」ことに徹し、突きや押し返しで相手の進行方向をコントロールしながら時間を稼ぐイメージです。
体格差や力に自信がある場合であっても、無理に転倒させたり壁に追い込もうとすると、逆にサスマタを奪われて一気に不利になる危険があります。
この想定では「時間稼ぎ」と「大声での通報・応援要請」が最優先。足元ばかりを狙うとかわされやすいため、むやみに攻め込まず、「とにかく距離を取る」ことを意識した方が安全だと感じました。
【想定2】保育者2名 VS 不審者1名
人数が増えることでやや有利になりますが、刃物相手である以上、油断は禁物です。どちらか一方が倒されれば、すぐに想定1の状況に逆戻りしてしまいます。
2人で横並びになってサスマタを構えれば、同じ方向から2本分の押し返す力を作ることができます。また、片方が正面で注意を引きつけ、もう片方がやや斜めから距離を詰めるなど、立ち位置を工夫する余地も生まれます。
ただし、その分どちらか一方が不審者のターゲットになりやすくもなります。攻撃動作のスキを見て、もう一方がサスマタで押し戻す/進行方向を変えるなど、互いにフォローし合う前提で動くことが大切です。
何度も訓練して感じたのは、先端から抜け出されて距離を詰められた瞬間に、一気に危険度が跳ね上がるということです。サスマタが届かない距離まで詰められる前に、少しでも多くの時間を稼ぎ、他の職員や警察の到着を待つ――その感覚を共有しておきましょう。
【想定3】複数保育者 VS 不審者1名
保育者が3人以上いて、サスマタも複数本使える状況になると、一気にこちらが有利になります。
たとえ不審者1人ひとりの腕力が強くても、「数」と「リーチ」を味方につけられるのがサスマタの強みです。全員で体重をかけながら、胴体や腰回りを複数方向から押し続けることで、相手はバランスを崩しやすくなります。
私は実際に不審者役として、4本のサスマタに囲まれ、壁際まで追い込まれる訓練を体験しました。本気で振り払おうとしても、一度に何本もサスマタをさばくのはほぼ不可能で、「抜け出した」と思った瞬間には別のサスマタに押し戻される、その繰り返しでした。
先生方の表情は真剣そのもので、「子どもたちを守る」という覚悟が伝わってくるような迫力がありました。
一方で、園庭の真ん中など、壁際がなく逃げ場が多い場所では、制圧までに時間がかかると感じました。「どの場所でどう追い込んでいくか」も、事前にイメージしておく必要があります。
サスマタについてのまとめ
- 「役に立たない」と言われることもありますが、正しい使い方や限界を知っておく価値は大きい道具です。
- 入口付近や廊下などに目立つように置くことで、一定の抑止力として働く可能性もあります。
- ただ「置いておけば安心」というお守りではなく、定期的な訓練とセットで初めて力を発揮します。
- 複数人で使えば、「押して距離を取る」「進行方向を変える」といったマンパワーを活かした運用ができます。
- 一度抜け出されて距離を詰められてしまうと、命に関わる危険な状況になりかねません。
大勢で押さえ込めた場合、素人が無理に近づいて拘束しようとするのは非常に危険です。ガムテープや縄などを使って手足を縛るにしても、可能であれば警察の到着を待ち、指示を仰ぐ方が安全だと私は考えています。
いずれにしても、実際に職員同士でサスマタを持ち合い、体験してみることが何よりの学びになります。訓練の際は、必ず複数本用意し、安全面に十分配慮しながら試してみてください。
ネットランチャーについて
ネットランチャーは、相手に網を発射して動きを鈍らせるタイプの防犯装置です。基本的には一度きりの使い捨てで、製品によって使用期限もあります。
当たった瞬間にすべてが終わる、というよりは、もがいているあいだの数秒〜十数秒を稼ぐための道具というイメージです。
ロマンはあるのですが、
・実際に撃つまで飛距離や広がり方の感覚がつかみにくい
・ジャストミートしなければ、十分な足止め効果が期待しにくい
といった難しさも感じます。
高価なものも多く、「試し打ち」で感覚をつかみにくい道具でもあるので、園の予算との相談が欠かせないアイテムだと思います。
催涙スプレーについて
催涙スプレーも、防犯グッズとしては有名なアイテムです。ただし、性能や使い勝手は製品によってかなり差があります。
護身用としては心強い道具ですが、保育現場で「必須」とまでは言い切れないと個人的には感じています。
検討するときに押さえておきたいポイントは、ざっくり次の3つです。
- 液状を押し出すタイプ/霧状に噴射するタイプなど、噴射形式が異なる。
- 風向きによっては、職員や園児側に逆流してしまうリスクがある。
- 有効距離が短い製品も多く、使用のために刃物を持った相手に近づく必要が出てくる。
特に3つ目のポイントは重要で、「スプレーを使うために危険圏内に入る」状況を生みかねないことは頭に入れておく必要があります。
一方で、催涙スプレー自体は小型で携帯性に優れ、うまく使えば強力な自己防衛手段になるのも事実です。園で常備するかどうかは、立地や園の方針、防犯計画全体とのバランスを見ながら判断していくとよいでしょう。
防犯スプレーの代替案として検討されるもの
園によっては、代替案として「ハチ・アブ用のスプレー(いわゆる蜂ジェット)」を備えているところもあります。
蜂の駆除に使う製品だけあって、飛距離が長く、ある程度離れた位置から噴射できるのが特長です。
ただし、興奮状態の人間にどこまで有効かは未知数ですし、風向きや子どもたちの位置によっては、こちらに不利になる可能性もあります。
緊急時とはいえ、「どの場面でどう使うのか」をあらかじめ決めておかないと、かえってリスクを高めてしまう道具でもあると感じます。
余談ですが、世の中には対クマ用スプレーのようなさらに強力な製品も存在します。人間に向けて使用すれば重大な事故につながる恐れもあるため、用途外使用は絶対に避けるべきです。
個人的に、防犯目的としてかなり有力だと感じているのが「消火器」です。
園内のほとんどの場所に設置されており、いざというときにすぐ手に取れるという意味でも頼りになります。
消火器の噴射は勢いが強く、相手の視界を遮ったり、距離を取るための一瞬のスキを作ったりするのに役立ちます。筒の部分をしっかり握れば、万一接近を許しても押し返すための心強い重量物にもなります。
もちろん本来は火災時に使うものですが、「子どもの命を守る」という観点から、緊急時の選択肢として想定しておく価値は大きいと感じています。
防犯カラーボールについて
防犯カラーボールは、投げつけて衣服などに蛍光塗料を付着させ、犯人の特定をしやすくするための道具です。
くれぐれも、子どもたちの遊び用ボールと混ざらないよう、保管場所や表示には十分気をつけたいところですね。
私の園では訓練で使用したことがなく、実際の使い勝手についてはまだ検証できていません。今後、使用する機会があれば改めて追記したいと思っています。
ここまで、園でよく検討される防犯グッズの特徴と、私が現場で感じた「リアルな使い勝手」をまとめました。
どの道具も「これがあれば安心」という魔法のアイテムではなく、あくまで避難と通報を優先しながら時間を稼ぐためのサポート役です。
次の記事では、道具だけに頼らない日頃の防犯体制づくりや、職員同士で共有しておきたい連絡・避難の流れについても整理していく予定です。
※「この記事で紹介している商品は、仕様と口コミをもとに『保育施設で使いやすそう』と判断した一例もあります。実際に導入する際は、必ず園の規模や業者さんと相談のうえ比較検討してください。」
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