父性って、結局なに?
言葉としては聞いたことがあるのに、いざ説明しようとすると曖昧になりやすいですよね。しかも世間では「父性が強い=怖い」「厳しい人っぽい」みたいなイメージが先に立つこともあります。
私は保育士として現場に立ち続けて18年目。たくさんの家庭を見てきて思うのは、父性は“厳しさ”だけの話ではないということです。
父性を健全に発揮するための4要素
① 遊び心(世界を広げる)
② 手本となる(責任を引き受ける)
③ 守る力(安心の土台をつくる)
④ 厳しさと思いやりで導く(自立へつなぐ)
子ども目線に訳すなら、こんな感覚です。
- 「一緒にいると楽しい。面白い」
- 「かっこいい。まねしたい」
- 「いてくれると安心。頼れる」
- 「怒られても、最後は味方でいてくれる」
この4つのどれかが欠けたり、逆に一つだけが極端に強すぎたりすると、父性は“しんどいもの”に変わりやすいんです。だからこそ、バランスが大事。
この記事では、父性をこの4要素に分けて、今日から家庭で再現できる形で整理します。学術的すぎず、でも「なんとなく論」にならないように、現場の観察と一般的な発達心理の考え方に沿って書きます。
① 父性の入り口は「遊び心」:まず信頼が育つ
幼い子にとって、親子関係のベースは「安心」と「楽しい」です。ここが薄いと、後から“しつけ”や“言い聞かせ”を積んでも入りにくい。
正直、幼少期は全身全力で一緒に遊べるだけでも「父親っぽさ」は一気に増します。そしてこれは見た目の評価の話ではなく、子どもの心にとっては「この人は自分の世界に入ってきてくれる」という大きな安心になります。
遊びの強さは「高い高い」みたいな体力勝負だけじゃありません。
- 一緒に走る/追いかけっこ
- 戦いごっこ/ヒーローごっこ
- 工作/料理/修理/建築ごっこ
- キャンプ/焚き火/虫とり
- 将棋やカード、ルールのある遊び
大事なのは「上手い」より“同じ熱量で混ざる”こと。子どもの世界は、外から見るとバカバカしく見えることにも笑いと意味が詰まっています。
遊びは、想像力・試行錯誤・自信の土台です。うまくいかなかった→工夫する→できた、という経験を、いちばん自然に積めるのが遊びだから。
そしてもう一つ。遊びで関係性が育っている家庭ほど、必要な場面で注意しても信頼が崩れにくいです。普段の貯金が効くんですよね。
② 手本になる父性:「自分に責任を持つ」
子どもは親の言葉より、親の“ふるまい”を見ています。これは本当に強い。
父性の「手本」は、立派な教訓を語ることではなく、日常の小さな責任を引き受ける姿です。
間違ったら、謝れる大人でいる
「自分のミスを認められない」「謝れない」大人、意外と多いです。けれど、子どもにとってはそこがいちばん学びになります。
謝ることは弱さではなく、信頼の技術です。間違いを修正できる大人は、子どもの安心にもつながります。
言葉の一貫性は「説得力」になる
挨拶、ありがとう、ごめんなさい。こういう基本ほど、子どもは見ています。
自分はやらないのに、子どもにだけ求める。これを続けると、子どもは「言ってることとやってることが違う」と感じます。反抗の芽にもなるし、家庭がギスギスしやすくなります。
完璧である必要はありません。大事なのは、直す姿勢を見せることです。
③ 「守る」父性:家族の安心をつくる3つの守り
「家族を守る」と言うと、つい“強さ”だけの話になりがちです。でも実際は、守る対象はもっと広い。
父性が守るものは主に3つ
① 生活的不安(衣食住・お金・環境)
② 精神的苦痛(孤独・不安・行き詰まり)
③ 物理的脅威(事故・危険・外的トラブル)
【生活的不安】を減らす
衣食住が整う、生活のリズムが保てる、必要なものが準備できる。これらは立派な「守り」です。稼ぐことだけじゃなく、家事や段取り、環境づくりも含まれます。
【精神的苦痛】から守る
家族がしんどいとき、話を“解決”しなくてもいいから、まず受け止める。これができると家庭は強くなります。
ポイントは「相槌のテクニック」より、態度としての関心です。スマホを置く、目を見る、遮らない。こういう小さな所作が、安心を作ります。
【物理的脅威】に備える
危険を予測して回避する、ルールを決める、必要なら第三者や制度も使う。これも「守り」です。
ここで誤解してほしくないのは、私は暴力を推奨していません。大事なのは「何があっても守る」という覚悟と備えです。危険から遠ざける判断、助けを求める判断、そこに父性が出ます。
ちなみに、「家族とは関わらないけど、お金だけ入れてる」だと、守りの一部しか満たせません。子どもが大きくなってから残るのは、日々の関わりの記憶です。
④ 厳しさと思いやりで導く:怒鳴るだけが父性じゃない
父性=断ち切る、父性=厳しさ。そう言われることがあります。たしかに、子どもが自立していくために「線引き」「社会のルール」を教える役割は大切です。
でも、父性が“怖さ”に化ける典型はここです。
「怒り」は最強だけど、最短で信頼を削る
怒鳴って従わせるのは簡単です。けれどそれを続けると、子どもは萎縮し、指示待ちになり、失敗を隠すようになります。家庭では“静か”でも、心が離れていく。
怒りが出るときは、たいてい「他の手段が思いつかない」状態です。だからこそ、深呼吸して一度確認してほしいんです。
怒る前のチェック
・私は今、感情をぶつけたいだけになってない?
・何を「できるようになってほしい」のか目的は明確?
・伝え方は1つじゃない(選べる)
厳しさは必要です。ただしそれは、相手の尊厳を守ったまま、線引きを教えること。
おすすめはこの形です。
- 事実:何が起きたか(短く)
- 影響:何が困るか(相手を責めない)
- 次の行動:どうしてほしいか(具体的)
- フォロー:できたらどうなるか(関係は切らない)
例:
「今、叩いたよね(事実)。叩かれると痛いし、仲良く遊べなくなる(影響)。嫌なときは“やめて”って言葉で言おう(次の行動)。言えたらちゃんと助けるから(フォロー)」
これが「厳しさと思いやりで導く」です。怖さではなく、成長へつなぐ。
父性は“才能”じゃない。育てていける
毎日忙しい中で、いつも理想通りに関わるのは無理です。大人にも波があります。
もし、つい強い言い方をしてしまった、感情的になってしまった、後悔がある。そういうときは「終わり」じゃありません。やり直す姿を見せること自体が、父性の手本になります。
※ただし、体罰や暴力が起きてしまう場合は、家庭だけで抱えず、自治体の相談窓口や専門機関に早めに頼ってください。恥ではなく、守りの行動です。
まとめ:父性の4要素チェックリスト
最後に、今日から使える確認用にまとめます。
- 遊び心:子どもの世界に同じ熱量で入れている
- 手本:間違いを認め、謝り、直す姿勢がある
- 守る力:生活・心・安全の3つを意識して整えている
- 導く力:怒鳴るより、目的を持って伝え方を選べている
父性は「厳しさ一択」ではありません。むしろ、安心を土台にして自立へ導く総合力です。
「より良い父性」を目指そうとする人は、家庭にとっても、子どもにとっても、すごく頼もしい存在です。完璧じゃなくていい。バランスを取りにいく姿勢が、いちばん効きます。
※わかりやすさのために「父」「父親」という言葉を使っていますが、「父性」は男性だけのものではありません。女性にも父性的な関わりはあります。一般に、役割として父性的機能を担いやすい人がいる——そのくらいの捉え方でOKです。
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